ディテールプラン1
デザイン計画にあたるディテール(床・壁・天井・排水溝等)プランですが、この部分の解説は各指定認定機関や食品事業関係団体で作成されたマニュアルやパンフレット等にも詳しく解説されているので熟知されている方も多いと推察しますが、これらディテール部の構造要件を満たすことが、HACCPシステム構築ではありません。
食品工場設計.comでは、食品工場のハード面から工場の衛生環境構築へアプローチしておりますが、ハードばかりを取り上げると、HACCPシステムがハードとソフトの両輪構成にもかかわらず、ハードありきと錯覚を起こさせてしまうかもしれませんが、HACCPシステムとはソフトです。
何を今更と思われるかもしれませんが、ディテールプランではこのような誤解、すなわち壁のRがとられている施設でないとHACCP対応工場ではないなどという誤解を見受けるケースが多いため前置きさせていただきます。R巾木がHACCPシステムである等という誤解が無いようにお願いたい。単に掃除のしやすい施設環境の一つとして採用されています。
床の計画をする際に望まれる構造要件とそのポイント
床面は耐水性かつ耐摩耗性で亀裂が生じにくく、更に滑りにくい材料を使用し、平滑で清掃が容易に行える構造であること。
床面には耐水性や摩耗性という機能を有し、作業者が滑ったり、凹凸にけつまずいて転倒しないようなものとするということでになります。
コンクリートという下地はおおむね共通した仕様となるでしょうが、ドライあるいはウエットという作業環境によりその表面仕上げの方法は数々あります。特にドライ床の材質の選択肢は多いのでは。ステンレスも使えれば長尺シートも可能であり勿論ウエット床で使われるケースが多い塗り床も選択肢となります。どれも清掃しやすく選択には頭を悩ますでしょうが、自社の作業環境での耐久性やコストなどを鑑み選ばれれば良いと考えます。
ウエットの床仕上げ材の選択ではノンスリップ的な材質を要求されるかもしれませんが、表面処理によっては掃除しにくい場合があるので選択には注意が必要である。なるべく平滑な物を選択して頂きたいのですが、実際には水があるので滑って転倒してしまうという懸念があるというケースもありますから一概には言えません。特に熱湯を使用されている工場では耐久性の面から考慮し選択する必要があります。素材に厚みがある場合は、耐久性に差が出てきますので、コストと鑑み選択は慎重にしたいところです。
水や湯を使用する部分にあっては、不浸透性・耐酸性・耐熱性の材料を使用し、適当な床勾配 (1.5〜2.0/100)を有するとともに、排水溝を設けて、排水が容易に行える構造であること。
床には適切な勾配をもたせるということであるが、その必要性を考えてみる。排水溝を設けて排水を効果的に行える環境にするには、床に水溜まりの部分があっては意味をなしません。そのために十分な集水効果を得られるような床レベルの検討を行いましょうということです。また同時に集水部となる桝の設置計画も十分な検討が必要です。水を使う部分というと流し台付近にばかり目を奪われ、大量の水を使用する機械洗浄水の排水用升は個数を少なく計画するケースも多く、先ほどのいつも濡れている床の状況の引き金ともなります。水の供給場所を記した工場施設の図面も作成し局所的に排水が可能なように計画しましょう。
床を排水溝代わりにしない。
この構造要件が最も大切ではないかと考えます。顕著に悪い状況は流しの排水パイプから水が床に垂れ流しにされているものです。流石に自社ではこのような事はしていないと申されるかもしれないし、ケース的にも少ないでしょうが、これは一例です。実際には同様の光景は意外と多く見られます。ニーダーや炊飯釜等をお使いの場合その熱湯を直接床に流されている所は少なくないはずです。床が水浸しになるとともに蒸気発生というダブルパンチで瞬時に室内環境は劣悪となってしまいます。まさしく床を排水代わりとして使用している代償と言えます。この後の排水プランにてアイデアをご紹介することとしますが、床を極力ドライな状況に保つためには、床に水が広がらないような工夫も合わせて実施していく事が必要です。合わせて、桝から湯気が上がらないように桝の構造には配慮が必要です。一か所湯を流したら、工場中の桝から温泉のごとく湯けむりが上がっているという工場を見かけることがあります。
床の隅及び床と壁が交わる隅は、5cm以上のアールをつけるなど清掃しやすい構造とする。
最も知られているハード対策ですが、Rの取り方によっては却って埃が溜まっているという状況を見受けます。Rの取り方としては塗り床の下地材である樹脂にてR成型する方法や、アルミでR成型された物を設置する方法があります。長尺シートならばシート下に三角材などを挟み込みR形状に仕上げる方法があります。いずれの場合も接合部となる部分に埃などが入り込まないような隙間処理をしっかりと施す事が寛容です。しかもRはデザインでは無いので、Rを施すことによって清掃等がしやすくなっている事が肝心です。
万全の計画で実施したはずの床工事であったとしても、数年経つと設備の振動や地震の影響などにより表面にクラック(割れ目)がはいり、そこから傷み部分が拡大していき目も当てられない状況をだましだまし生産しているケースは数多く、メンテナンスを実施したくてもその時間がとれないのが食品製造施設の状況です。床という部位は一度施した工事の不具合を最も補修しにくい所となります。計画に当たっては補修という事も念頭におき適材を環境に合わせて選択することを心がけてください。