ゾーニング計画
設計者にとっては、建築主からの要求・希望事項(階数,階高,面積,家相など)を盛り込み可能な限りそれらに配慮しその要素を生かす計画とすることが基本姿勢となり、その要求事項を満たして衛生的な環境を構築するのが食品工場設計を請負った設計士の仕事となります。しかもコストは限られているケースも多く、対費用効果が最大限となる優れた提案への期待は大きいものです。
目立って優れたものや目新しいものでの対応ではなく、欠陥がほぼ見当たらない総合的にレベルの高い設計が良い設計では
この視点で食品工場を設計するならば高クラスのクリーンルームを一室有しての工場計画ではなく、空気の流れを制御し、菌の付着や増殖などが無いクリーン度を保持できるゾーニングや動線が確保されている工場が総合的にレベルの高い設計がされていると考えられます。
工場計画に携わる者にとって欠陥がほぼ見当たらない工場にするにはどうするか?
工場計画の考え方
製造施設の計画とは、製造しているものが食品であれ自動車あるいは電化製品いずれにせよ、何を(What)・誰が(Who)・どのような方法で(How)・どこで(Where)・いつ(When) という4W1Hでとらえ最も合理的・能率的な生産や工程管理が行えるようにすることを目的に実施します。
この目的を達成するためには計画に次の内容が包含されていなければなりません。
1. 経済的な施設であること
2. 作業者が安全かつ快適に過ごせる施設であること
3. 空間利用率が高い施設であること
4. 運搬が軽減できる施設であること
5. 管理監督がしやすい施設であること
6. 物の流れ、人の流れがスムーズな施設であること
7. 変更に柔軟に対応できる融通性のある施設であること
8. 保全・維持がしやすい施設であること
そして進め方としては、組織的に経済性を考え、首尾一貫していることが大切です。
◆ 全般的な大まかな基本計画から詳細計画へ移っていくこと。
◆ 理想から出発し、それを基に実際的な計画を立てていくこと。
◆ 工場全体のバランスを考えた計画とすること。
食品工場の場合
食品工場であっても、何を、何処で、誰が、いつという流れでまとめていく事には変わりありませんが、加えて食品工場では衛生管理の必要性から、工場内部を衛生面(汚染度合い)により、清浄度・温湿度などに基準を設け、設定水準に応じた区分が衛生管理上求められるためゾーニングの計画(=ゾーンコントロール:建物内を用途・方位などによっていくつかの区域に分け、区域ごとに適当な空気調和をおこなうこと)と動線の計画(動線とは人や物等の移動する道筋をいい、無駄な動きを少なく、作業性が良いように計画していきますが、食品工場では製品への交差汚染を防止するという要件を加えた計画が要求されます。) を盛り込んでいかなければなりません。
ゾーニング計画の基本
衛生面でのゾーニングの計画手順は、汚染物を扱う汚染区域とそれ以外の、非汚染区(準清潔区・清潔区)に工場エリアを大別する衛生区分から始めます。
汚染度合いによる区分は汚染区・準清潔区・清潔区となります。
非汚染区の準清潔区と清潔区の区分ですが、清潔区は隣接する準清潔区にガードされるように配置すること、また作業工程としては汚染区域を通過した作業は前処理室などの準清潔区域と連続すると考えると、後述の物の流れ(動線計画)に沿って、
汚染⇒準清潔⇒清潔⇒準清潔⇒汚染
の配置が基本となります。
衛生区のゾーニングは、「工程別作業域区分及び製品の流れ図」などを用いると図面での計画時に整理しやすくなります。
汚染度合いによる区分
汚染区
原材料の受け入れ室や前処理室、倉庫など外部との交差汚染の考えられる場所
「ゾーニングの急所」
汚染区域として配置していく場合に先ずとりかかる部屋としては原材料保管庫が思い当たります、しかし計画するにも外部運搬車両のアプローチ(外部動線)に支配されるため建屋内の外周部に必要面積を決め配置することになります。手始めですから配置はしやすいゾーンなのですが、日常のストック量を考えすぎて大きめの面積を取りすぎると後々の配置計画に大きく影響を及ぼすため必要最小限の面積として配置することにします。全ての部屋を配置し面積的に余裕があれば拡大するようにしましょう。また配置は、可能な限りその都度製造施設エリアを往来しなければならないような奥(建屋中心部)への配置は交差汚染の危険性が高くなるので避けます。この時点で急所となるのは包装材等の保管スペースです。外部より運び込まれた物が清潔区となる包装室と隣り合わせで行き来自由となっていては異物混入のリスクがあります。前室的な部屋を計画するか、持ち込み作業にはソフト管理を組み込み対応することが求められます。
準清潔区
加熱などの工程が実施されるボイル室など汚染作業区からの微生物の汚染・拡散を防止する処置を行う場所
「ゾーニングの急所」
菌や異物を取り除く役割となる部屋は加熱や洗浄を行う事となります。他のエリアに比べると空調や給排水といった設備への配慮がより以上に求められる事となります。ダクトや配管等は恒久的な物ではなくメンテナンスの必要性も考えられます。実際に改修を計画した際に他のエリアへも工事範囲が及ぶため生産を停止する事が出来ずに長期にわたり不具合のまま放置しているという例もあります。また天井裏に配管した給水管が結露し清潔エリアの天井に水滴が落ちてきたという例もあります。外部設置の室や機械からの連絡経路にも配慮した配置を考えることも急所の一つとなります。
清潔区
充填室や包装室など最終製品として交差汚染防止等の微生物制御を必要とする場所
「ゾーニングの急所」
清潔区の配置を考える際に切り離せないのがサニタリースペース(手洗いや衣服の塵埃の除去作業をする所)となりますが、同様に厚生施設やトイレとの関連性が出てきます。厚生施設を玄関のそばに配置すれば、更衣の後に清潔区まで長い通路設置が余儀なくされスペースの無駄遣いになる場合や、人も物も何もかもその廊下を利用して移動をまかなう動線となってしまい衛生管理上不適となってしまうことも考えられます。このような場合は玄関から更衣室までの経路で置き換え更衣後の移動距離を短縮するか、作業者用に別途入口を設け製造施設に近い場所へ更衣スペースを配置する方法を考えます。
また汚染⇒準清潔⇒清潔⇒準清潔⇒汚染の配置が基本となると前述しましたが、四方を別管理区域で囲ってしまうと、生産設備の入替計画の時には設備の搬入出口が無く痛い目にあいます。清潔区に限らず壁の一面は外部に接する配置を計画することも急所と言えます。
幾つかのゾーニングにおける計画時の急所をご紹介しましたが、目先ばかりにとらわれずこれから数年間に渡り毎日使用していく空間ですからメンテナンス対応にも配慮することは必要となります。また計画した汚染度別のゾーニングとは、単に作業工程に合わせて清潔区や汚染区と名付けているのではないのですから当然管理区分ごとに落下細菌数の基準値を定め、基準値内の施設衛生管理が必要となります。食品工場ゆえの環境管理も急所として押さえていくことは大切となります。
今回は食品工場では急所を押さえた計画の必要性について述べましたが、この急所を押さえる作業こそが、欠陥がほぼ見当たらない工場計画へと、言い換えればレベルの高い計画となるからです。